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東京高等裁判所 平成4年(行コ)130号 判決

控訴人(原告) 中山和夫 外一名

被控訴人(被告) 八潮市

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五七年三月一日付けで控訴人両名に対して原判決添付別紙物件目録(一)、(二)の各土地(本件各土地、以下、略語は原判決と同一である。)につきなした仮換地指定処分(本件処分)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

第二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示(ただし、三丁裏五行目の「原告ら所有の建物」を「原告中山康子所有の建物(以下「原告康子所有の建物」という。)」に改め、四丁裏五行目及び六丁表七行目の「原告ら所有の建物」を「原告康子所有の建物」に各改め、五丁裏八行目の「藤波所有の」の次に「建物の」を加入する。)のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  土地区画整理事業において、道路をどこにどのように敷設するかは一切土地区画整理事業者の裁量に委ねられ計画道路の位置の指定は照応の原則とは無関係である、というべきではなく、著しく不合理な計画道路の位置の指定ないし変更がなされ、これによって仮換地指定を受ける者同士の間で不公平が招来されれば、これは照応の原則に反するといわなければならない。

本件においては、被控訴人は、藤波所有の建物(土留部分を含む。以下、同じ)が被控訴人所有地(字新川西三八三番二、以下、同字の土地は地番のみで表示する。)を不法占有して道路幅を狭くしていたにもかかわらず、藤波をして当該不法占有建物部分を除去させることなく、藤波所有の建物の移転費用が高額になるとして、計画道路の位置を変更したため、控訴人康子所有の建物の一部除去・改造を余儀なくさせることになったのであって、これは、仮換地指定を受ける者同士の間において著しい不公平となり、照応の原則に違反している。

2  本件各土地と藤波所有地との間を通っていた道路(以下、計画道路と区別して、「本件道路」という。)の幅員は、一・八二メートルであったところ、これを幅員四メートルに拡張するため、藤波が昭和四六年七月一六日付けで、本件各土地の以前の所有者が昭和五一年九月九日付け(同年一〇月一二日受理、甲三三号証)で、各幅一・〇九メートル部分を被控訴人に寄付した。藤波の寄付にかかる部分が三八三番二の土地(被控訴人所有地)で、本件各土地の以前の所有者の寄付にかかる部分が三八四番一の土地である。

3  藤波がその所有地上に藤波所有の建物を新築するに際して作成した昭和四六年一二月六日付け建築計画概要書及びその添付図面(甲第二三号証の一、二、本判決別紙図面)によると、申請建物部分(太線)は藤波所有地内に位置し、被控訴人所有地(採納地)にかかっていないが、申請建物部分の増築部分を表示する追加線引された部分(細線部分)が、すなわち本判決別紙図面の「(ろ)、(ソ)、(は)」の部分及び北側の「(に)、(カ)、(ヨ)、(D)、(E)、(に)」の部分がいずれも被控訴人所有地に出っ張っている。藤波の新築計画では、D、Aを結ぶ線が道路境界線であって、申請された新築建物は、藤波所有地内に限られていたが、その後増築された部分が道路境界線から被控訴人所有地に違法に出っ張るようになったのである(被控訴人作成の各道路位置図(乙一八号証)によると、道路幅員は四メートルであるのに、控訴人らの所有地(三八四番二)と道路との境界線から藤波所有の建物の土留部分までの距離は三・二メートルしかなく、また、道路幅員証明申請書(甲一八証)では、現況最小幅員が三・四メートルである。)。仮に、右出張部分が昭和四六年一二月六日以前に建築されていたとしても、また、その後に増築された場合でも、この建物出張部分の敷地は道路として使用することを目的として寄付されたのであるから、被控訴人が昭和五七年の変更前の昭和五四年の事業計画に基づいて仮換地指定し、被控訴人所有地を計画道路とした場合でも、また、右変更後の事業計画に基づく場合でも、被控訴人は、藤波所有の建物の出張部分を撤去するについて補償する必要はない。しかるに、被控訴人は、藤波所有の建物が採納地である被控訴人所有地に出っ張っているのを故なく黙認・保護し、藤波に対し九〇〇万円の補償費を支払う必要があるとして、昭和五七年に、この部分について計画道路の位置を移動させたのである。このため、控訴人ら所有地(三八四番二)と計画道路との境界線が移動し、控訴人ら所有地の一部が計画道路に編入されることになり、土地の減歩に止まらず控訴人康子所有の建物の一部を除去・改造する必要が生ずることとなった。

このことは、藤波には何の理由なしに有利に、控訴人らには何の理由なしに相当度不利になったもので、照応の原則違反も程度が高い。

4  藤波所有の建物は、現在、その一部が被控訴人所有地に出っ張っており、土留部分が被控訴人所有地を占有する面積は、四・四平方メートルで、藤波所有の建物自体が同土地を占有する面積は、一・二二平方メートルである(甲二六、三〇号証)。

5  本件道路は、道路台帳によれば、幅員が三・〇メートルで、昭和五三年一一月当時は、幅員が四メートル(原道路幅員一・八二メートル、三八三番二の幅員一・一〇メートル、三八四番一の幅員一・〇九メートル合計四・〇一メートル)であった。しかるに、被控訴人は、これを一・八メートルと誤認して本件事業計画を遂行した(甲三三号証)。

道路台帳の実延長調書(甲四三号証の二、三三号証)には、「三八三」(そのうち藤波所有地が同番一で、同人が寄付した土地が同番二で、右二筆の土地と道路を隔てて真向かいの土地が控訴人所有の本件各土地のうちの三八四番二である。)が幅員一・八メートル道路の起点であり、同時に、幅員三メートル道路の終点としても表記されている。本件道路の供用開始は昭和四九年三月一八日であり、被控訴人に対し、藤波が三八三番二を寄付したのが昭和四六年であり、本件各土地の以前の所有者が三八四番一及び八四七番一四を寄付したのが昭和五一年で右供用開始時には採納を完了していないから、道路幅は四メートルではなく三メートル(正確には原幅員一・八二メートルと藤波の寄付地幅一・〇九メートル(なお、一・一〇メートルとの主張もある。)合計二・九一メートル)である。本件道路の幅員は、昭和五九年三月二七日、道路台帳上、三・二メートルに変更された。これは、控訴人らがそのころ八潮市土木課に本件道路の幅員調査と道路台帳の変更方を申し出て、調査の結果、道路幅員が三・二メートルと認定され(四メートルと認定されなかったのは、藤森所有の建物の一部が本件道路を不法占有していたからである。)、道路台帳上もその旨変更になったのである。そして、道路幅員の変更を受けた箇所は、もちろん控訴人ら申し出にかかる控訴人らの所有地(三八四番二)が接する部分で、その延長一八メートルの部分である。実延長調書には、「幅員三・〇〇メートル、延長一〇三メートル」道路は従前より一八メートル短い延長八五メートル道路として表記され、「幅員一・八メートル、延長五二メートル」道路は何の変更もない。したがって、控訴人らの所有地・三八四番二は、道路台帳変更前は、「幅員三メートル、延長一〇三メートル」道路の終点に位置し、該道路に接していたのである。被控訴人が本件各土地は幅員一・八メートルの道路に接しているとしたのは、道路台帳を見誤った認定であり、藤波所有の建物が本件道路を不法占有していることを正しく調査認識すれば、道路幅員は、「原道三メートル」及び「後退一メートル」とするか「四メートル」と認定されなければならない。

所有者別換地調書(乙六号証)の本件各土地の評価に関する指数も右道路幅を前提としたものであり、かつ、この誤認が、計画道路の位置の変更となったのである。つまり、前記計画道路位置の変更は、境界位置、事実関係の調査など一切なさずに、藤波と被控訴人にとって最も便宜な位置を安易かつ無責任に決定したのである。その結果、藤波所有の建物が被控訴人所有地を不法占有しているのを認識し得ず、道路位置が本件各土地側に大きく振られ、本件処分に至ったのである。そして、右道路幅員の認定は、従前地の「平方メートル当たりの評価指数」にも影響を及ぼし、換地後になされる清算金の授受の段階で、控訴人らは、不当な不利益を受けることになるのである。

6  もし、被控訴人が藤波所有の建物の道路不法占有部分四・四平方メートルを除去のうえ計画道路を敷設すれば、控訴人らとしては、仮換地九五平方メートル、特別保留地四・四二平方メートルの合計九九・四二平方メートルの宅地が確保される筈であった。保留地とは、基準地積を超えた範囲の土地あるいは減歩により生じた土地のことであり、これを希望者に売却し、売却金を事業資金に充てるためのものであり、甲四二号証に記載のある特別保留地は、被控訴人の本件区画整理事業における仮換地指定により仮換地部分からはみ出すこととなった建物があるとき、これを除去せずに建物突出部分の敷地として被控訴人が当該建物所有者に現に売却した土地である。

本件各土地の実測面積が一〇七・一九平方メートルであるのに、控訴人らが基準地積確定日までに、その旨の登記簿地積の更正登記を経なかったのは、登記簿地積を超える範囲の土地は「保留地」の処分によって確保できるとの市の職員の説明に従ったものであるが、これは控訴人らが被控訴人の特別の優遇措置を期待したものではなく、通常なされる一般的な処置として他の者と同じように自らも保留地の取得ができるであろうと期待していたのである。ところが、控訴人らには、この保留地が確保されず、基準地積(登記簿地積九四・八八平方メートル)を超える面積(一二・一九平方メートル)がいきなり道路敷地として収用され、本件各土地は仮換地九五平方メートルの過小宅地とされ、さらには、所有建物の一部除去・改造を余儀なくされて、他の者に比して著しく不公平かつ不利益な処分を受けているのである。

7  藤波は、本件事業施行区域内に広範に土地を所有する大地主であり、各所有土地の減歩率はまちまちで、そのうち、本件各土地とその向かいの藤波所有土地のみとの減歩率を対比するのは相当でない。藤波所有の三八二番一と三八三番一(合計の基準地積二〇〇・〇二平方メートル)に対する仮換地指定は「街区番号一六・符号二」の一七六平方メートルであるが、右土地上の藤波所有建物の敷地占有面積は、これをはるかに超えるところから、右土地に隣接して、「街区番号一六・符号一」の土地八九・〇〇平方メートルを仮換地指定し、結局、藤波に対しては、実質的には右両地を併せて二六五平方メートルの土地として、その所有建物及び敷地の現状使用状況にほとんど影響を及ぼさないような配慮がなされて仮換地指定がなされているのである。そして、被控訴人は、藤森に対し被控訴人所有地の前記不法占有の範囲の土地・建物までを保護するために、計画道路の位置を変更し、控訴人ら所有地を道路敷に編入してしまったのである。

8  昭和五七年の仮換地計画変更前の計画道路により除去されるのは、藤波所有の建物のうち藤波が経営する藤波青果店の背後部の僅少範囲であって、同人が賃貸している他の三店舗は除去する必要がない。

二  被控訴人

1  事業計画道路の位置変更の可否は、計画道路と地上建物である藤波所有建物等との関係を問題にすれば足り、敷地と建物との位置関係は区画整理法上、問題となることはない。同法そのものが、都市基盤の面的整備を目的とするものであり、計画道路をどの位置に設定するのが合理的か、同法の目的に照らして、道路の機能と費用等を勘案して決定されるものだからである。既述のとおり、控訴人らは、現位置仮換地を受けており減歩もない。また、藤森との関係においても特に不利益を受けていない。

2  土地区画整理事業の実施にあたり、施行者は、土地の改善変更前の従前地の現況測量調査によって、土地の利用状況や建物等の現状を調査すれば足り、その際、境界を調査し確定することは不可能・困難であって、かつ、その義務もない。仮換地指定において、仮換地と従前地との位置、地積、地質、利用状況、環境等の照応については、変更前の現況測量調査と仮換地設計中の仮換地図面とを比較すれば、地積を除いては容易かつ正確に判断できるものである。

3  本件道路の路線認定等の経緯は、次のとおりである。

(一) 昭和四五年一二月一八日、大字松之木三七七番地二先を起点とし、同三七七番地先を終点とし、路線名二三三の認定があり、区域決定同日、幅員二・七メートル、延長二九四・五〇メートル(ただし、従前の延長から廃止及び分離された延長を差し引くと正確には一七一メートル)であった。

(二) 昭和四九年三月一二日、右区間について、廃止、認定、区域決定が行われた。

〈1〉 廃止・・路線名三一六、起点大字松之木字新川西三七五番地一先、終点同三三七番地先、幅員二・四から四メートル、延長一一七一メートル

〈2〉 認定・・路線名、起点、終点、延長とも右に同じ、幅員一・八から四メートル

〈3〉 区域決定(実延長調書)

三七五番一から三八三

幅員三メートル、延長一〇三メートル

三八三から三三七

幅員一・八メートル、延長五二メートル

三三七から三三七

幅員四メートル、延長一六メートル

〈4〉 供用開始、同年三月一八日

(三) 昭和五九年三月二七日付け路線名三一六に関する処分内容・区域変更、供用開始については、控訴人ら主張のとおりである(甲四三号証の二)。

藤波は、昭和四六年、その所有地三八三番二を店舗建築のために被控訴人に寄付したが、建築計画概要書(乙一五号証の一、二)で公道一・八メートルの中心線より二メートルを後退線としており、三八三番二は一・一メートル幅である。したがって、右寄付後の道路幅は二・九メートルとなった。本件各土地の以前の所有者・大成商事株式会社は、昭和五一年に、三八四番一(〇・九八平方メートル)、八四七番一四(一・〇九平方メートル)、図面上一・〇九メートル幅を後退部分として被控訴人に寄付した。しかし、道路認定上は、昭和四九年三月の時点で三メートル幅として、同五九年三月の時点で三・二メートル幅とする区域変更決定がされていた。

被控訴人が再弁明書(甲三三号証)で、本件各土地の背面道路の幅員を一・八メートルとしたのは、右書面作成にあたり、道路台帳を読み間違えたものであって、正しく読めば、昭和四九年当時の道路台帳上の幅員は三メートル(実際には、前述のとおり二・九メートル)である。しかし、右書面で述べたとおり、路線価の算出基礎となる街路係数は、区間全体の幅員・構造。連続性等を考慮して背面道路幅員を一・八メートルとしたものであるが、このことは、区画整理の最終段階で問題となることで、本件争点の照応の原則とは全く関係がない。

4  藤波は、昭和四六年一二月六日付けで建築確認を得て、藤波所有地(三八三番一)に建物を新築したが、被控訴人所有地(採納地)に出っ張って建築してはおらず、その後、藤波が右建物を増築したことはあるが、現在に至るも出っ張りの事実はない。甲二三号証の二の配置図中には、これが作成された(昭和四六年一一月二日の越谷土木事務所の受理日以前)後、控訴人らからの行政不服審査請求手続中に、現況説明の資料として、藤波の増築部分を右配置図に追加して記入された追加線引部分があり、これには、あたかも藤波所有の建物の一部が採納地の一部に出っ張っているように記載されている。しかし、これは、右配置図に増築部分を追加線引きするにあたり、申請建物表示の配置図上(本判決別紙図面、甲二三号証の二、鮮明な乙一五号証の二)、申請建物(ハ)、(ナ)、(ロ)の各点を結ぶ直線と追加線引部分との接合位置を誤解したものであって、申請建物の(ロ)点に追加線引部分の(ソ)点が位置するようにするのが正しい線引きであった。このことは、現況図(乙一六号証・平成三年八月一二日設計。宅内排水溝工事の改修前現況平面図で正確なものである。乙一七号証は改修後のもの)の丸で囲んだ部分がH鋼柱の位置で、配置図(乙一五号証の二)の申請建物の位置を示すものである。

5  藤波所有の建物は、被控訴人所有地を不法占有していないが、仮に不法占有しているとした場合でも、これに対して補償することは可能である。

控訴人らの主張によるも、右占有部分は、一・二二平方メートルである。藤波所有の建物の移転補償費を約九〇〇万円と査定した時の右建物床面積は二〇八・四四平方メートルであり、右不法占有面積割合は、〇・〇〇五パーセント、したがって、控訴人ら主張の出っ張り建物部分に対する移転補償費部分は、四万五〇〇〇円となる。仮換地の指定は、従前地に対する土地の使用収益権限を仮換地上に移転させる行為であり、係争中の法律関係もそのまま移転される。それ故、当該建物が財産的価値を有するときは、たとえ土地に対する不法占有者であっても、当該建物の正当な権利者であるなら、これを補償することができるのである。また、実際問題として、立退きについて正式な手続上の複雑さを避けるために、何らかの金銭給付により任意の立退きを求める取扱いもなされている。

6  計画道路の位置変更の主な理由は、補償費の節減であって、その変更には合理的な理由がある。すなわち、当初計画では、藤波所有の建物の全体の移転補償費は、約九〇〇万円であり、仮換地指定のもととなった位置に計画道路を変更すると、当時の試算で、藤波に三〇〇万円、控訴人康子に二〇〇万円(なお、その後の時点の試算によると、控訴人康子所有の建物の除去・改造の補償額は、改造工法を採用し、平成四年当時が約四六〇万円、平成七年当時が約四七〇万円である。)となって、四〇〇万円の経費が節約できるのである。仮に、藤波に建物出っ張り部分を補償しなかったとしても、その部分である前記四万五〇〇〇円を差し引いた移転補償は支払わねばならず、大勢に影響を及ぼすものではない。なお、藤波所有の建物では四店舗が営業しており、これらの営業損失補償費を加えると莫大な補償額となり、反面、右計画道路の変更は経費節減も大となるのである。

7  本件土地区画整理事業は、街路工事の既工事が九九・八パーセント、建物移転率が九八・八パーセントで、争いになっているのは本件のみで、仮に本件処分が取り消されることになれば、本件土地区画整理事業に及ぼす影響は甚大であり、その取消しは許されるべきではない。

8  控訴人らは、基準地積決定(九四・八八平方メートル)手続後、本件各土地の地積を更正して一〇七・一九平方メートルとしたが、右地積変更分(増加分)は、清算金による処理となり、評点数の確定金額は換地処分直前となる。

第三証拠〈省略〉

理由

第一  当裁判所は、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の七丁表九行目冒頭から八丁裏一行目末尾まで及び同九丁裏末行冒頭から同一〇丁表八行目末尾までを引用し、これに行を改めて次のとおり付加する。

三 既述の他の当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる本件争点以外の前提事実

1  藤波は、昭和四六年七月一六日付けで被控訴人に対し被控訴人所有地(三八三番二、二二平方メートル)を寄付し、同年一二月六日付けで藤波所有地に建物を新築するため建築確認を得て、そのころ、藤波所有の建物を建築し、その後、藤波所有の建物を増築した(甲三号証、二三号証の一、二、二四、三三、三五号証)。

本件各土地の以前の所有者であった大成商事株式会社は、昭和五一年九月九日付け(同年一〇月一二日受理)で被控訴人に対し三八四番一(〇・九八平方メートル)、字天神耕地八四七番一四(一・〇九平方メートル)を寄付した(甲三三、三六、三七号証)。

2  土地地形図(甲三三号証中のもの)及び公図(乙一九ないし二一、三三号証)上、本件道路は、藤波所有地及び本件各土地付近において、直線ではなく、また、同一幅には表示されていないが、藤波及び大成商事株式会社が前記寄付に際して作成した地積測量図では、本件道路がほぼ直線で、同一幅に表示され、右道路に沿って、藤波は幅一・一〇メートル部分を分筆し、大成商事株式会社は幅一・〇九メートルを分筆残地としている。なお、右地積測量図によると、大成商事株式会社が寄付した三八四番一の面積である〇・九八平方メートルは、元番の三八四番・面積五九平方メートルから分筆される三八四番二の実測面積五八・〇二平方メートルを差し引いた計算上の数値であり、実面積を表示するものではなく(幅を一・〇一メートルとして逆算すると、長さは〇・九メートル前後となって実状に合わず、実際の長さは一八メートルである(甲二六、三六号証)から、三八四番一は、極端に縄延びのある土地ということになる。)。しかし、これと同時に寄付のために分筆され同一幅であることが明らかな字天神耕地八四七番一四(一・〇九平方メートル)は実測面積であり、その幅(高さ)が一・〇九メートルである(甲三七号証)から、三八四番一の幅も一・〇九メートルであったと認めることができる(ちなみに、本件各土地のうち八四七番二は、これから実測して分筆した同番の一三及び一四を差し引いた残地であるから、控訴人らが後記のとおり更正登記により増歩した分は、八四七番二の縄延びと推定される。もっとも、本件各土地のうち、三八四番二の登記簿面積が五八・〇二平方メートル、八四七番二のそれが三六・八六平方メートル合計九四・八八平方メートルであったのに、控訴人らが錯誤を理由に、前者のそれを少ない五四・二七平方メートル、後者のそれを五二・九二平方メートル合計一〇七・一九平方メートルに更正した測量の根拠は不明である。)(以上甲二、三、三五ないし三七号証)。

3  前記引用判示のとおり、本件土地区画整理事業の事業計画は、昭和五三年一二月一五日、認可され、同五四年一一月一六日、事業計画の第一回変更が認可され、同五七年二月九日、事業計画の第二回変更が認可された(乙一一号証、証人椎名正次郎)。

4  控訴人らは、昭和五四年六月一六日、篠崎トミ子から本件各土地を、控訴人康子がその地上建物(昭和五二年二月二〇日新築)を購入した。控訴人らには、本件各土地には縄延びがあり、昭和五四年の事業計画による計画道路(幅員四メートル)によると、これと鋭角に交わる別の計画道路とに挟まれた三角形の本件各土地の周囲に若干の保留地が出ることになり、区画整理によって減歩があっても、右保留地を購入することにより広い土地となりうる、ないし、その期待の持てる土地であるとの思惑があった(甲二、三、一四号証、原審及び当審における控訴人中山和夫本人尋問の結果)。

5  しかるに、昭和五七年の二回目の事業計画の変更中には、本件各土地と藤波所有地との間の計画道路の位置を南(本件各土地方向)へ移動する変更が含まれており、移動の位置は、藤波所有の建物の土留の外面を幅員四メートルの計画道路の北(藤波)側が通る線とされた。その理由は、昭和五四年の計画道路によると、藤波所有の建物の移転補償費が高額になるためであった(その詳細は、後記認定のとおりである。)。そして、右計画道路の変更により、控訴人康子所有の建物の一部に道路敷地部分がかかることになり、当該部分の除去、改造が必要となった(乙七、八号証、前掲証人)。

6  被控訴人は、前記変更した計画道路の位置のままだと控訴人らに対し仮換地として九〇平方メートルしか取れなかったため、右計画道路の位置を極く僅か北に戻す変更をして(軽微の変更として認可手続は取っていない。これは、若干の修正であり、控訴人らに有利な変更であるから、控訴人らが無効を主張する筋合いではない。)、昭和五七年三月一日、控訴人らに対し本件処分をした。その内容は、前記引用判示のとおりで、基準地積九四・八八平方メートルに対し仮換地は九五平方メートルであった。そして、本件各土地が前記計画道路とこれに鋭角に交わる別の計画道路とに挟まれた位置にある三角形の土地であった(当該部分に仮換地面積を目一杯収めた)ため、計画道路の位置の前記変更により控訴人らが期待していた保留地が生じなくなり、これを任意取得して所有地面積を広くし、敷地内に駐車場を持つための余裕がなくなるに至った。

控訴人らは、昭和五八年一一月一日、本件各土地について、公簿面積を九四・八八平方メートルから一〇七・一九平方メートルに更正する地積更正手続を取った(以上、前掲証拠)。

7  昭和五四年の計画道路によると、藤波所有の建物について移転補償費が約九〇〇万円(この中には、同建物内の四店舗の営業損失補償費は算入されていない。)となり、同五七年のそれによると、藤波に対する移転補償費は零となり、控訴人康子に対する移転補償費が二〇〇万円となり、最終的に計画道路を若干北に戻してなされた本件処分を前提にすると、控訴人康子に対し建物改造費二〇〇万円、藤波に対し補償費及び建物基礎部分の工事費合計三〇〇万円を要することになった(その後、控訴人康子に対する建物改造費は平成四年で約四六〇万円、同七年で約四七〇万円と試算されている。藤波に対するそれも同率で上昇しているものと推定される。)(前掲証人、弁論の全趣旨)。

8  昭和四六年一二月六日以前の本件道路の幅員は、一・八メートルと認定されていたが、藤森からの寄付・被控訴人の右同日付け採納により二・九メートルとなったものというべきところ、同四九年三月一二日、本件道路の幅員は、三メートルと認定された。その後、同五一年に大成商事株式会社からの幅一・〇九メートルの寄付・被控訴人の採納があったから、本件道路の幅員は現実四(計算上は三・九九)メートルであるべきところ、その旨主張する控訴人らからの調査申出により被控訴人において調査した結果、同五九年三月二七日、その幅員は、三・二メートルと認定された(甲四三、四四号各証)。

四 本件争点は、昭和五七年の計画道路の位置の変更の違法ないし瑕疵を本件処分に関連づけて主張することができるか、右変更は、藤波所有の建物が被控訴人所有地を不法占有している(真実、不法占有しているか)ことを容認ないし看過してなされた違法なものであるか、その場合、本件処分は照応の原則に違反することになり、あるいは、これが本件処分を違法ならしめるかということである。

1  本件区画整理事業の施行者である被控訴人による計画道路の位置の決定あるいはその変更は、施行者が施行地区内の効率的な整備、道路の機能、費用等を勘案して合目的々に自由に決定ないし変更することができるものというべきであるが、その決定ないし変更が右目的に反していたり、変更の理由に合理性がないなどにより裁量権の範囲を逸脱している場合には、右決定ないし変更は違法となるというべきである。

そして、計画道路と仮換地処分との関係については、区画整理事業の施行者である被控訴人による計画道路の位置の決定あるいはその変更は、これにより現存建物の所在と計画道路の位置とが明確になり、それ自体、ある程度の具体性を帯び、個人の権利義務に影響するところが既に発生しているといえる部分はあるが、これを前提とする仮換地の指定があって初めて地上建物の移築の可否、除去の要否及びその範囲が具体的に現地で確定するものということができるから、これによって、明確に個人の権利義務に直接影響が出るものと認めることができ、したがって、計画道路の変更の違法がひいては後の仮換地処分について照応の原則違反等の違法を招来する場合には、計画道路の位置の変更そのものについて、あるいは、後になされるであろう建物等の移転等の通知・照会処分(土地区画整理法七七条)について不服申立てをするかはともかく、これを仮換地処分の違法事由として主張すことも許されるものというべきである。

2  控訴人らは、藤波所有の建物が被控訴人所有地を不法に占有しているにもかかわらず、被控訴人は、これを容認ないし看過して、これに対する移転補償費が嵩むのを避けるためとして、計画道路位置を変更したのは違法であると主張するので、検討する。

本件道路は、原幅員一・八メートルに藤波及び大成商事株式会社の各寄付地の幅員(一・一〇及び一・〇九メートル)を加えると幅員三・九九メートルとなり、他方、計画道路の幅員は四メートルであるところ、現況において、昭和五七年の計画道路の本件各土地側の線と藤波所有の建物の外側にある土留の最南端との距離は、四メートルはなく、被控訴人作成の各道路位置図(乙一八号証)によると約三・二メートル程度でしかない。

本件全証拠によるも、昭和五二年二月二〇日に新築された控訴人康子所有の建物が本件道路(大成商事株式会社の寄付地部分)を占有していたとの事実を認めることはできず、弁論の全趣旨、甲二八、三四号証、当審における控訴人中山和夫本人尋問の結果によると、その事実はないことが窺え、したがって、藤波所有の建物が被控訴人所有地を占有していた可能性の方が強いというべきである。藤波所有の建物についての昭和四六年一二月六日付け建築計画概要書及びその添付図、その後の追加線引部分(甲二三号証の一、二、乙一六、一七、二三号証)並びに当審証人永田清貴の証言によっても、藤波所有建物の増築部分及び土留部分が藤波所有地内にのみ存在することを確定することはできない。

本件においては、被控訴人が昭和五七年の計画道路の位置変更に際し基礎とした資料がその有無を含めて全く不明であり、原審証人椎名正次郎の証言によると、藤波所有の建物と本件道路の幅員、被控訴人所有地、採納地の幅員等との関係を顧慮することなく、現地での現状を前提に藤波所有の建物及び控訴人康子所有の建物の移転補償費等を検討して、計画道路の位置を変更したことを認めることができる。

被控訴人は、土地区画整理事業の施行者は、境界を調査し確定する義務はなく、不法占有者の建物についても移転費を賠償することができると主張するところ、一般論としてはともかく、本件においては、被控訴人所有地は当該占有者である藤波自身が被控訴人に寄付し、被控訴人が採納した土地で、道路敷地とされていた部分であるから、容易に事実関係を明確にすることができたというべく、また、現に当該部分について、計画道路の位置変更の要否、その程度が問題になっていたのであるから、現況及び真の道路幅の把握については、より慎重な検討が被控訴人に要求されていたというべきである。そして、昭和五四年の計画道路が藤波所有の建物を切り取ることとなる部分のうち、被控訴人所有地にかかる部分については、計画道路の位置の変更に際し、不法占有部分として無視することもできたのであり、これをしないでした道路位置の変更は、その分、必要のないことをしたものというべきである。

ところで、本件全証拠によるも、各採納地を含めた本件道路の位置を、したがって、藤波所有の建物が被控訴人所有地を占有する範囲を明確には確定することができない。

控訴人らの主張及び立証(甲二六、二七、三〇号証、当審における控訴人中山和夫本人尋問の結果)によると、被控訴人作成の各道路位置図面を前提にするものであるが、藤波所有の建物自体が被控訴人所有地を占有する面積は一・二二平方メートルで、その最大出っ張り幅が約二二センチメートル(右各書証の図示で斜線と高さのみからは、出っ張り部分の幅を正確には割り出すことはできない。)で、コンクリート製土留までの占有面積は四・四二平方メートル、その最大出っ張り幅が六二センチメートル(前同)であり、他に格別の証拠はない(甲三八、乙一八号証)。

右占有部分自体は小面積であり、前記認定の藤波所有の建物に対する移転補償金の計算においては大勢に影響しないところ、本件道路の位置と計画道路の位置との関係が確定できないため的確な検討はできないけれども、本件各土地及び控訴人康子所有の建物との関係で有意義な計画道路の移動幅としては、控訴人らに有利に、前記約六二センチメートル幅全部を不必要な計画道路位置の変更であったとして、以下、検討する。

計画道路の位置変更により、控訴人らが期待していた特別保留地が生じなくなったことに関する控訴人らの主張は、権利として主張できないことを前提にするものであって、採用することができない。その余の主張の趣旨は、要するに、理由のない右変更により控訴人康子所有の建物の一部が本件処分による仮換地上からはみ出すことになり、何らかの補償費の支払いを受けるにしても、その除去・改築を余儀なくされる不利益を受けることになったというものである。

控訴人らは、右変更によって、本件処分自体が照応の原則に反していると主張する趣があるけれども、前記引用判示のとおり、控訴人ら及び藤波は、いずれも現地仮換地であって、従前地との位置、地質、利用状況、環境等において同一であり、その減歩率においても、控訴人らに特に不利益ということはなく(基準地積確定後の地積更正は、仮換地処分において顧慮する必要はない。甲一六、乙一四号証)、本件各土地に対する仮換地指定である本件処分自体において控訴人らを不利益に藤波を有利に扱ったとは認められない。

控訴人らは、計画道路の位置変更により「本件各土地の一部が計画道路に編入されて」、あるいは、「道路敷地として収用されて」、他の者に比して著しく不公平かつ不利益な処分を受けたと主張するが、控訴人康子所有の建物との関係を除けば、右述のとおりで理由がない。また、控訴人らは、大地主である藤波について、本件藤波所有地のみと控訴人らの本件各土地とを対比して照応の原則を論ずるのは相当でないと主張するが、控訴人らの主張も結局は計画道路の位置の変更を離れての主張ではないから、これに関連する右各土地の対比こそが正当であるというべきである。

3  そこで、控訴人康子所有の建物に対して計画道路の位置変更に何らかの違法があると評価できる関係があるとして、かつ、これが本件処分に承継され、あるいは、本件処分の違法を招来することがありうるとの見解に立つとしても、既述のとおり、その正確な位置を割り出すことは出来ないけれども、昭和五四年の計画道路が藤波建物を切る線と昭和五七年の本件処分の前提となった最終の計画道路の線との変更幅に対する前記不必要な変更幅である藤波所有の建物(土留部分を含む。)の道路不法占有部分の最大幅(前掲約六二センチメートル)の割合、すなわち計画道路の位置変更幅のうち藤波所有の建物の道路不法占有部分の最大幅の占める割合は、三分の一を超えない程度のものと認められ(甲九ないし一一号証、三八号証によると、計画道路の位置の変更は、昭和五四年の計画道路の位置を平行に本件各土地側に移動したものではなく、西側が大きく東側が小さく移動して幅が異なっているため、その移動幅の正確な認定は困難であるため、右は、本件を判断する上での全くの目安による割合である。右移動幅によらずに、移動した各面積の対比によれば、その割合が更に小さくなることは、甲三八号証からも明確である。また、前記藤森に対する補償額から逆算すると、計画道路の位置変更により九〇〇万円から三〇〇万円に減額され、その三〇〇万円の一部が不法占有部分といえるから、六〇〇万円部分は明白に正当部分である。なお、被控訴人主張のように、単に藤波の不法占有面積のみの補償の額を問題にすると、その僅かな部分のために控訴人康子所有の建物が不利益を受けていることになり、かえって不法占有の看過の結果が大きいとの評価につながりかねないのであるが、本件各土地ないし控訴人康子所有の建物側への移動幅を主として問題とすべきであるから、右の主張は相当でない。)、したがって、道路の位置の変更という事柄の性質に照らしても、最終の計画道路の位置変更そのものを違法ならしめる瑕疵とまではいうことができない。

五 以上のとおりであって、本件処分には、照応の原則に反する事由が、あるいは、これが違法となる事由があるとは認めることができない。

第二  そうすると、右と結論を同じくする原判決は、相当であって、本件各控訴は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、控訴費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩佐善巳 山崎健二 彦坂孝孔)

別紙図面(省略)

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